2019/10/23 20:19

人物描写や舞台設定にくすっとする行成薫『ストロングスタイル』【多重ロマンチック的ぼくらのプロレス】

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人物描写や舞台設定にくすっとする行成薫『ストロングスタイル』【多重ロマンチック的ぼくらのプロレス】
5.0

行成薫さんによるプロレスを題材とした小説『ストロングスタイル』が文藝春秋より発売された。2016年から2017年にかけて『オール讀物』に掲載された作品の単行本化。よって内容もその当時のプロレスを髣髴されるものとなっている。内容は投資ファンドに買収されて蘇ったメジャー団体の物語を軸に、地方で頑張るローカルプロレスからさらにデスマッチ団体までをひっくるめて描き、いじめっこといじめられっこの物語を横の梁として描いた傑作編。正直、視点となる登場人物も多く、プロレスの裏側も描くので万人にお勧めはできないが、ここ10年のプロレスを把握しているなら、人物描写や舞台設定にくすっとするものがある。

例えば主人公の一人である「御子柴大河」は日本最大のプロレス団体「JPF」の若きエース。ショーマンプロレスを学んだ海外修業を経て「プロレスの神の子」として帰国。プロレス復権のキーマンとして業界の女性人気に大きく貢献したレスラー。得意技はバックドロップとラスト・ジャッジメント(ダイビング・ボディプレス)。

ウウン、棚橋弘至選手とオカダ・カズチカ選手をあわせたようなキャラクター。「プロレスの神の子」は中邑真輔選手が元ネタだろう。

対をなす「小林虎太郎」は大河とは小学校の同級生。小柄であるが生来の運動能力と柔軟性を持つレスラーだ。教師を志しながらも、児童公園で試合をするローカル団体NMBFで覆面レスラーとしてデビュー。五次元殺法・ダブルムーンサルトプレスを武器にし、やがてデスマッチ団体JUNGLEで忍者系覆面レスラー『HIKAGE』として再デビュー。

モデルは飯伏幸太選手だろうか。端々にはハヤブサ選手のエッセンスも感じられる。パズルのように組み合わせられた設定が巧妙に混ぜ合わされ、裏も表も合わさり独自のストーリーを生む。前述の「投資ファンドに買収されて蘇ったメジャー団体」も投資ファンドに買収された全日本とゲーム会社の参加となり復活を遂げた新日本を合わせたような設定だ。本社から送り込まれた社員の南野はアンケート調査とマーケット分析結果を重んじ、旧経営陣を追放。機械的でありながらも次第にプロレスに心を動かされていく人物。これは某スピードパートナーズ社にユークスやブシロード的な人物がいればというifもしも…的な世界観で、作者の行成薫さんはプロレスが本当に好きなんだろうなあと思うし、だからこそのこだわりを感じる。

『ストロングスタイル』のその他登場人物も紹介しよう。モデルは誰と誰なんだろうと想像してみるのも楽しい。雑誌掲載時は短編だっただけに章によっては主人公的な扱いの人物もいる。

大山久志。彼は打撃とサブミッションを得意とするベテランレスラー。団体買収を受けた路線変更により格闘系スタイルになる。南野の指示により総合格闘技に挑戦するも無残に敗北。不運が重なった敗北であったが、責任を取らされエース格から降格。地位を挽回するためタイトルマッチでシュートを仕掛けるのだが……。

薩摩ジロー。元プロレスラーで引退後は「JPF」のマッチメイカーのひとり。新任の南野がプロレス的なシナリオを描けないためサポートをおこなうが、実は後述するカルロス志間の薫陶を受け、裏で別の支持を行っていた。

横島雅道。「JPF」の中堅レスラー。40代後半で通称「マサさん」。大河を育てたトレーナー。もともとインディー団体出身でキャッチスタイルだったが、地味ということで本来のスタイルを封印。凶器攻撃などラフファイトを得意とするレスラーとなる。大河の試合ではマネージャーのような形でセコンドに着き、指示を送っている。年頃の娘あり。

サンダー真田。地方の児童公園を主戦場とするインディー団体NMBFの主宰。NMBFでは真田以外全員がプロレス以外の「本業」を持ち、100人未満の観客の中でプロレスをエンジョイする。団体としての訓示は「イジメ、ダメ、ゼッタイ」。

カルロス志間。JPFの元マッチメイカー。年齢は70代。興行師の家系に生まれた仕掛け人であり、話題つくりの天才。かつては絶大な権力を持ち、過激なプロレス、いかに世間の注目を集めるかをモットーにしていた。自分たちの作り上げたかつてのプロレスを取り戻すべく、外部から影響を与えてゆく。

西本狂介。デスマッチ団体JUNGLEのエース。マッスルデーモンの異名を持ち全身傷だらけ。一人称は「おれっち」。

そこにマッチメイカー就任する南野。女性の視点でJPF広報を務める山田真奈美。プロレスあるあるのような人物たちが人間臭いドラマを引き起こし、キャンバスを描く絵の具の一つとなっていく。

正直、いじめ問題などやや消化不良の逸話もあるし、この設定ならもっと物語に組み込めるだろうという登場人物もいる。これも当初は短編の連作ものだったという残り香だろう。

雑誌掲載時の短編にマッチメイカーたちの顛末「マッチ・メイカー」6編を足すことで一つのストーリーにつなげてる点も興味深い。生観戦に実況とテレビ解説を足すように、その試合に至るまでの裏の経緯を足すことで、もう一つの物語を形成させ物語に厚みをもたせているのだ。行成薫さんなりの『ストロングスタイル』。硬派なブックデザインだがそこには著者のプロレス愛が詰まっている。

この記事を書いたライター: 漁師JJ

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